※登場人物はすべて仮名です。掲載許可をいただき、内容は個人が特定されないよう一部構成を再編集しています。

はじめに

昨日のセッションに来られたAさんは、こんな悩みを抱えていました。

  • 「人が多い場で発言するのが怖い」
  • 「注目されると自分の考えを伝えられない」
  • 「間違えるのが怖い。恥ずかしい」
  • 「本当は自分の思いを伝えたい」

事前カウンセリングの結果、今回のテーマは「周りに合わせる自分を変える」に決まりました。

セッションの流れ

ヒプノセラピーでは、幼少期の記憶を思い出してもらう前に、まず安心・安全の感覚を十分に感じていただきます。

そのために、まずAさんには、イメージの中で、星に囲まれた宇宙空間から、花が一面に咲くお花畑へ。

さらに澄んだ水が流れる川辺をイメージしてもらい、心地よさをじっくり感じてもらいました。

イメージと共に十分にリラックスしたところで、3つ数えて"記憶の扉"をイメージしてもらいました。

記憶の扉とは、悩みを解決するために見るべき過去につながる扉。

「1、2、3」と数え、目の前に現れたイメージは、ドラえもんの"どこでもドア"のような扉。

その向こうは「周りに合わせる自分」を選んだ幼い頃につながっています。

最初に浮かんだのは、小学校の教室

最初は机が見えるだけ。でも徐々に、一人のクラスメイトの顔が浮かびます。

「田中くん(仮名)ってどんな子?」と聞くと、「運動神経が良くて、でも先生によく怒られる」とAさんは思い出しました。

その田中くんとの一番の記憶へ移動すると……「帰りの会」の最中に、田中くんが先生に激しく向かっていくシーンが現れました。

Aさんはその場面を見て、強い"怖さ"を感じます。「なんでそんなことするんだろう?」

その"怖さ"の感情を手がかりに、さらに過去へと退行していきました。

さらに過去へ——2歳のあの日

今どこにいるの?

「家のリビング」とAさん。

当時2歳のAちゃんと、4歳のお兄ちゃん、そしてお母さん。

お兄ちゃんが積み木を壊して叱られています。

Aちゃんは「お兄ちゃん、かわいそう」と感じていました。

「お兄ちゃんは悪気はない。ただ自分の思った通りにしているだけ」

怒られているお兄ちゃんはどんな顔?——「ふてくされてる」

ヒプノセラピーの技法「人格交代」

ここで人格交代の技法を使い、まずお兄ちゃんの中に入って気持ちを聴きました。

潜在意識は奥底でみんな繋がっている、と言われています。

だからこそ、ヒプノセラピーを使って相手に入ると、自然と相手の気持ちがわかるのです。

お兄ちゃんの声:「僕は平気。怒られても気にしない。」

そこにいるAちゃんはどんな表情をしている?と聞くと、「びっくりした顔してる」と教えてくれました。

Aちゃんに何か言いたいことは?——「僕は大丈夫、気にしてないから」と、お兄ちゃんは笑っていたのです。

それを聞いてAちゃんは、少しほっとします。お兄ちゃんに妹のことを聞くと「僕より偉い」という言葉が返ってきました。

今度はお母さんの気持ちへ

お母さんに入ってその気持ちを聴くと——全く言うことを聞かないお兄ちゃんを何とかしようと、必死にしつけようとしていました。

でも全然言うこと聞かない。

「Aちゃんはどんな子?」と聞くと、「すごくお利口さん。全く迷惑をかけない。お兄ちゃんと逆なんだ」と教えてくれました。

こうしてヒプノセラピーでは、登場人物を行ったり来たりしながら、当時は感じることのできなかった相手の感情を感じていきます。

涙があふれた瞬間

セッションを受けている大人のAさんは、涙がどんどんあふれ出していました。

お母さんの気持ち、お兄ちゃんの気持ち、そして幼い自分の気持ち——それをしっかり感じながら、でも彼女の中で「お兄ちゃんは平気なんだ」という、驚きにも似た感覚がありました。

そして、小さなAちゃんがずっと怖がっていたこと。いつもお兄ちゃんが怒られているとき、ずっと我慢していたこと。その気持ちをお母さんに伝えると——

お母さんは気づいていなかった。「お兄ちゃんでいっぱいいっぱいだった」と謝ってくれました。そして、Aちゃんを優しく抱きしめてくれたのです。

「ごめんね。」

お母さんに抱きしめられて、さらにたくさんの涙があふれてきました。

浮かび上がった「幼い日の決めごと」

セッション後の振り返りでAさんは言いました。

「お兄ちゃんが怒られるのを見て、私は"お利口さん"でいようと決めたのかもしれない。

だから、自分の気持ちを我慢するクセがついたんだと思う。」

この"幼い日の決めごと"が、大人になってからも無意識で作動し、

周りに合わせる → 自分を後回しにする → 人前で言葉が詰まる

という現実を生み出していた、とAさんは腑に落ちた様子でした。

セッションの終盤、Aさんは自分にこう許可を出せました。

「もう我慢しなくていい。私は、自分の思いを話していい。」

なぜ、これで現実が変わるのか

僕らは幼い頃の体験を潜在意識に取り込み、その"設定"のまま大人になってからの選択や反応を自動運転で行いがちです。

ヒプノセラピーは、安心の中でその設定の起点に触れ、感情を感じ直し、意味づけを更新するプロセスです。

Aちゃんが抱きしめられ、安心を受け取れたことで、

「お利口でいなきゃ=自分の気持ちは後回し」という設定が緩み、

"自分を尊重して話す"という新しい選択が、現実の中で取りやすくなります。

セラピスト所感

今回、印象的だったのは、Aさんの思いやりの深さです。

小さなAちゃんは、お兄ちゃんにも、お母さんにも同時に心を寄せていました。

その"優しさ"が、結果として自分の感情を抑える方向に働いていたのです。

優しさを捨てるのではなく、「自分の気持ちも同じだけ大切にする」へとバランスを取り直す——その瞬間に、Aさんの表情はっきりと柔らぎました。

同じ悩みを持つ方へ

こんなことに心当たりはありますか?

  • 人前で話すとき、体がこわばる/声が出にくい
  • 会議やグループの場で「本音を飲み込む」のがクセになっている
  • うまく話そうとすると、恥ずかしさや怖さが先に立つ

もし心当たりがあるなら、それは話し方のテクニックの問題ではなく、幼い日の"決めごと"がまだ生きているサインかもしれません。

ヒプノセラピーは、その起点へ優しく還り、感情を安全に感じ直し、今のあなたに合う新しい設定をインストールするお手伝いをします。

おわりに

Aさんはセッションを終えて、「まさかこんな記憶が出てくるとは」と驚きながらも、"必要なものが必要なタイミングで現れる"潜在意識の働きに深く納得されていました。

言葉にするのが怖かったのは、「お利口でいよう」という優しさゆえの生き方だった。だからこそ、これからは優しさのベクトルを自分にも。

もう、我慢しなくていい。私は話していい。


今日も自分を喜ばそう(^^)/